スタンフォードのストレスを力に変える教科書
▶︎ストレスは“悪“とされることが多く、それを避けるためにはどうすればよいか、という考えの書籍、論文は多い。
そうではなく、“ストレスを受け入れ向き合うことが成長へと繋がる”と著者の心理学者:ケニー・マクゴニガル氏は仰っている。
私達はストレスとどのように付き合っていけばよいのか?
ストレスについてどう思うかを簡潔に表すのしたら、あなたにはどちらの表現がしっくりくるか。
A ストレスは健康に悪いから、なるべく避けたり減らしたりして管理する必要がある。
B ストレスは役に立つから、なるべく受け入れて利用し、うまく付き合っていく必要がある。
○タバコの警告表示はなぜ逆効果か?
イェール大学の研究では、中年の男女を20年にわたって調査した結果、中年期に年齢を重ねることをポジティブに捉えていた人達は、ネガティブに捉えていた人達よりも、平均寿命が7.6年も長かった。
運動を欠かさず、タバコも吸わず、血圧もコレステロール値も正常値を保つなど、健康維持のために重要なことを守っていても、そのような節制をしない場合との平均寿命の差は、4年未満であることがわかっている。
物事に対する考え方が大きな影響を及ぼす事を示すひとつの例は信用である。「ほとんどの人は信用できる」と考えている人は、長生きする傾向にある。
デューク大学が15年かけて行った研究によると、55歳以上の成人で「人を信用できる」と思っていた人達の60%は、15年後の研究終了時にも生存していた。それとは逆に「人は信用できない」と思っていた人達の60%は、研究終了時にはすでに亡くなっていた。
タバコの警告表示の画像を載せるのは、禁煙の効果があるどころか、画像を見て恐怖に襲われ、不安な気持ちを落ち着かせるためにかえってタバコを吸いたくなってしまう。喫煙者はただ恐怖から逃れようとするだけだった。
○恥をかくと「自己破壊的な行動」に走ってしまう
肥満の女性達に「肥満の従業員らに対し、雇用主による差別待遇が始まっている」という内容の記事を読ませた。すると、その直後の実験で、全く別の職場問題に関する記事を読んだ肥満女性達に比べて、2倍のカロリー量のジャンクフードを食べていた。
恐怖、不名誉、自己批判、恥ーーそのようなネガティブな感情を人々に抱かせれば、問題行動に走ってしまう。
警告のメッセージを受け取った者は、打ちのめされ、憂鬱になり、自己破壊的な行動に走る。
○ストレスは人を成長させ、健康で幸せにする
ストレスは人を賢くし、強くし、成功へと導く。人はストレスの経験から学び、成長することができる。そして、勇気や思いやりを持つこともできる。
「ストレスは健康に悪い」と思うと死亡リスクが高まる。
○どうでもいいことにはストレスを感じない
「ストレスとは、自分にとって大切なものが脅かされたときに生じるものである」
すなわち、「ストレスと意義とは密接な関係にある」
1.すべては思い込み
「ストレスは役に立つ」と思うと現実もそうなる
合気道は、対立から生じる力を調和する力に変えるという原則に基づく武道である。
その概念とは「ものごとについてどう考えるかによって、そのものごとから受ける影響は変化する」という考えである。
マインドセットは、あなたの現実を形づくる考え方のことで、目に見えるような体の反応にも影響を及ぼす。
それだけでなく、マインドセットは長期的な健康や、幸福感や、成功にも影響する。
さらに重要なことに、考え方を変えるための簡単な介入実験にたった一度参加するだけで、そのあと何年にもわたって、参加者の健康状態や幸福感が向上し、成功する可能性が高くなることが、科学の新しい分野であるマインドセットの研究によって、明らかになっている。
肥満の人を
A「この仕事は良い運動になる、ということをカロリー表示にして説明した群」
B「健康のために運動がいかに重要か、と説明した群」
のふたつのグループに分けて同じ仕事に取り組んでもらった。
4週間後には、
A群は、体重・体脂肪減少、血圧も下がり、仕事を以前より好きになっていた。
B群には健康効果が見られなかった。
説明後、A群に起きた変化は「自分は運動している」と思うようになったことだけである。
つまり、
「ふたつの効果が想定される場合(今回は運動によって健康効果が現れると思うか or 作業によって体に負担がかかると思うか)、その人がどう思っているかによって、どちらの効果が表れるかが決まる」
言い換えれば「思った通りになる」ということである。
○「考え方」でストレスホルモンの分泌が変わる
コルチゾールとデビドロエピアンドロステロン(DHEA)のふたつのストレスホルモンがある。両方ともストレスを感じた時に副腎から分泌されるホルモン
・コルチゾール:糖代謝や脂質代謝を助け、体と脳がエネルギーを使いやすい状態にする。また、消化や生殖や成長など、ストレス時にはあまり重要でない生物機能を抑える働きもある。
・DHEA:神経ステロイドの一つ。脳の成長を助ける男性ホルモン。DHEAはストレスの経験を通じて脳が成長するのを助ける。また、コルチゾールの作用を抑制し、創傷の治癒を早め、免疫機能を高めるなどの働きがある。
コルチゾールの割合が高いと、免疫機能の低下やうつ病などの症状が表れる可能性がある。
DHEAの割合が高くなると、不安症、うつ病、心臓病、神経変性など、ストレスに関連する様々な病気のリスクが低下する傾向がみられる。
ストレス反応の「成長指数」
→コルチゾールに対するDHEAの割合。
成長指数が高い、つまりDHEAの割合が高いと、ストレスに負けずに頑張れる。
・「成長指数」が高い大学生の場合、努力をいとわずに粘り強く勉強し、GPA(成績平均点)のスコアも高い傾向が見られる。
・軍隊のサバイバル訓練では、「成長指数」の高い人は集中力が高く、問題解決能力に優れ、集団から脱落せず、訓練終了後も心的外傷後ストレスの症状が表れにくい傾向が見られる。
・「成長指数」が高い人は、児童虐待から立ち直るなど、きわめて苛酷な経験からも回復する傾向が見られる。
「ストレスには良い効果がある」と考えた人はDHEAの分泌量が多く、「成長指数」が高くなっていた。
○思い込みは雪だるま式に増大する
思い込みの効果は、プラセボ効果よりも強力で、「マインドセット効果」と呼ばれる。プラセボ効果が短期的にある特定の効果のみをもたらすのに対し、マインドセット効果の及ぶ範囲は雪だるま式に増大し、ますます威力を増しながら長期的な影響をもたらす。
マインドセットになるような思い込みは、単なる好みや、学術的な事実や、知的な意見を超越している。
マインドセットはあなたの人生観を反映した中心的な信念になる。あなたが自分の経験をどのように受け止め、どのような決断を下すかに、大きく影響する可能性がある。記憶や思いがけない状況や、誰かの言葉などがきっかけとなって、自分の中の思い込み(マインドセット)が強化されると、考え方も、感情も、人生に対する向き合い方も、ことごとく左右されるようになる。やがてそれが、健康や幸福や寿命といった長期的な結果にも影響してくる。
ストレスに対してネガティブな人の行動
・ストレスに向き合おうとせず、ストレスの原因についてなるべく考えないようにする。
・ストレスの原因に対処せず、ストレスを紛らわそうとする。
・ストレスを紛らわすために酒などに逃げたり、依存したりする。
・ストレスの原因となっている人間関係や役割や目標に対して、努力したり、意識を向けたりするのをやめる。
ストレスに対してポジティブな人の行動
・強いストレスを感じる出来事が起きた事実を受け止め、現実として認識する。
・ストレスの原因に対処する方法をしっかり考える。
・情報やサポートやアドバイスを求める。
・ストレスの原因を克服するか、取り除くか、変化を起こすための対策を講じる。
・困難な状況をなるべくポジティブに考え、成長する機会として捉えることで、その状況において最善を尽くす。
アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンは、筋肉と脳がエネルギーを効率よく摂り込み、利用するのに役立つ。“火事場の馬鹿力”は「闘争・逃避反応」の一つである。
10代のふたりの少女が、重さ1.3トンのトラクターを持ち上げて、下敷きになっていた父親を救出した例がある。
ストレスによるエネルギーは、行動と脳を活性化させる。エンドルフィン、アドレナリン、テストステロン、ドーパミンなど何種類もの脳内化学物質が分泌される。このような状態をストレスの「興奮と喜び」の効果と呼ぶ科学者もいる。
ストレス反応によって生じるオキシトシンは、脳の恐怖反応を鈍らせ、体が動かなくなったり、あるいは逃げ出そうとすることを防ぐ。また、心臓血管にも効果的であり、心臓にはオキシトシン専用の受容体があり、心臓細胞の再生や、微小損傷の修復に役立つ。
ストレス反応はレジリエンスのために体に備わっている機能である。
身体は回復のためにさまざまなストレスホルモンの力を借りる。
コルチゾールとオキシトシンは炎症を抑え、自律神経のバランスを整える。DHEAと神経成長因子は、神経の可塑性を高め、脳がストレスの経験から学ぶのを助ける。
ストレス時にこれらのホルモン分泌量が多い人は、回復が早く、疲労が長引かない傾向にある。
ストレスからの回復プロセスは、瞬間的なものではない。強度のストレス反応が起こったあとには、脳は数時間かけて神経細胞間の結合を「再配線」し、ストレスの経験を記憶し、そこから学ぼうとする。このときのストレスホルモンは、学習と記憶をつかさどる脳の領域の働きを活性化させる。
感情に伴う神経系の反応は、脳の可塑性を高める。
心理学ではこれを「ストレス免疫」と呼ぶ。
○ストレスを避ける代償
ストレスを避けようとすると、充実感や人生に対する満足度や、幸福感が、著しく低下してしまう。
また、孤立する可能性が高まり、「つながり」や「帰属」の意識が薄れていく。
さらに心身の疲労困憊につながる。
スイスのチューリッヒ大学の研究では、「ストレスを避けたい」と答えた学生は、集中力、体力、自制心の低下が著しかった。
またアメリカのカルフォルニア州パロアルトで実施した1000人以上の大規模研究では、「ストレスはできるだけ避ける」と答えた人たちは、その後の10年間でうつ病になった確率が高かった。また、職場や家庭での争い事も増え、失業や離婚などの辛い経験をした確率が高かった。
心理学ではこれを「ストレス生成の悪循環」という。ストレスを避けようとしたことが皮肉な結果を生む。
心理学者のRichard Ryan、veronica futa、Edward L deciの論文集「幸福の探求(The Exploration of Happiness)」では、「ひたすら快楽のみを求め、痛みを避けようとする人には、深みや意味に欠けた、仲間のいない人生しか手に入らない」と述べている。
→代償を確認する
1.機会を逃す
イベントや活動に参加する機会や、役割を引き受ける機会があっても、ストレスが多すぎると思って辞退したりわ途中でやめたりすることがあるか?
2.逃げる
生活のストレスについて考え、様々な感情が湧いてくるのを避けたり、忘れたりしたい時や、辛い気持ちを紛らわせたい時、あなたはどんなことをするか?あるいはどんな手段に頼るか?
3.自分の将来に限界を設ける
もし生活にストレスが生じるのを恐れさえしなければ、やってみたいことや、経験してみたいことや、受け入れたいことや、変えたいことがあるか?
▶︎ 能動的か受動的か。
あらゆる問題、事象に対してどのように捉えるかは本人次第。
能動的な人は打開策を見出すことを諦めず前を向き、受動的な人は周りの環境に流され自分の意思とは無関係に現況に左右される。
○ストレスに強くなるとはどういうことか?
→「ストレスによって成長する勇気」
ストレスに強くなるというのは、ストレスを感じたときに、「勇気」や「人との繋がり」や「成長」という人間ならではの底力を、自分の中に呼び覚ますことである。
ストレスを避けることではなく、ストレスを経験する中で自分自身を積極的に変えていくことである。
▶︎逆境、苦境などの状況・環境の変化に対して、自分の芯を持って変化できるかどうかが大切。
ストレス反応を感じたら自己の価値観を再認識する。
他者に心を開くことで自己効力感を高めることができる。
ストレスを排除するのではなく、受け入れ、そこから何を学べたか認知し、次に活かす。
ストレスは生きていく上で身体にとって大事なものである。
私たちが日頃メディアで見かけるニュースは、健康に大きな影響を及ぼしている。アメリカの大規模調査では、「日常的なストレス」として最も多かった回答のひとつが、ニュースを見ることだった。強度のストレスを感じていると答えた人のうち、40%の人々は、ニュースを見たり、読んだり、聞いたりすることが、生活の最大のストレス源になっていると答えた。
ニュースとせいで感じるストレスは、生活によるストレスと違い、絶望感をもたらすという特徴がある。自然災害やテロ攻撃の後でテレビのニュースを見ていると、うつ病やPTSDを発症するリスクが高まることが、多くの研究によって明らかにされている。
「回復の物語」Restorative・narrative
回復のストーリーを報道する。
衝撃的な事件の直後に恐ろしいことばかり報道するのではなく、成長と癒しのストーリーを伝えるのである。
・災害の後、被災地の人達はどのようにして復興をとげたのか
・悲劇のあと、人々はどのようにしてもう一度、人生と向き合ったのか。
・どのようにして苦しみの中に意味を見出したのか。
人々は「回復の物語」を聞いたり、読んだり、映像で見たりすることで、希望や勇気が湧き、自分の人生にも変化を起こそうという意欲が湧いてくるという。
ストーリーの持つレジリエンスは、人々に感染する。
▶︎ストレスは避けるものではなく、受け入れるものである。
「心臓がドキドキしているのは、怖いから?いや、身体が行動を起こすための準備をしている。チャレンジ反応だ。」
なぜ今ストレスを受けていると自覚しているのか。身体の変化は何のためなのか?
ストレスを受け入れることは、自身にとってプラスになる要素がある。
ストレスは良くも悪くも、自分にとって大切なものである。
「ストレスは悪いもの」という思い込みをなくせば、身体の反応は変わり、人生も変わる。