情動と病気について
情動は病気を作り出す
「身体予算」は通常、脳が身体のニーズを予期し、酸素、グルコース、塩分、水分などの資源を循環させることによって、1日を通じて変動する。
食物を消化している最中は、胃や腸は筋肉から資源を「借り」、走るときには、筋肉は肝臓や腎臓から資源を借りてくる。
身体予算のバランスは、脳の予測がひどくはずれると失われる。
人間関係、不測の事態、心理的に何か意味のあるできごとが起こると、脳は、誤って、燃料が必要だと予測し、それによって生存のための神経回路が活性化される。
バランスの乱れが長引くと、体内の活動は悪化する。
体内に必要以上のエネルギーが恒常的に必要と感じると、炎症性サイトカインは悪玉になる。
通常はコルチゾールが炎症を抑えるが、不調により血中のコルチゾールレベルが長期間あがったままになると、炎症は激化し、活力の損失を感じ、悪循環に陥る。
炎症のせいで疲労を感じると、限られたエネルギー資源を保存するために、あまり動かなくなる。
食事の量が減り、睡眠の質が低下し、運動しなくなる。
すると身体予算のバランスがさらに乱れ、深刻なほどのひどい気分に陥る。
体重が増える場合があり、脂肪細胞には炎症を激化させる炎症性サイトカインを賛成するものがある。
また、社会的なつながりが少ない人は、炎症性サイトカインのレベルがそうでない人より高く、病気にかかりやすい。
炎症性サイトカインは脳に侵入する。
ひどい気分の時、脳内の炎症は、脳の構造、とりわけ内需要ネットワークに変化をもたらし、神経結合に干渉してニューロンを殺しさえする。
慢性的な炎症は、注意の集中、記憶の想起を困難にし、IQテストの成績を低下させる。
糖尿病、肥満、心臓病、うつ病、不眠症、記憶力の低下、早期老化、認知症など免疫系は多くの病気の要因になることは最近の科学的研究により判明している。
ストレス
ストレスは人間関係、仕事、学校などの外部の要因ではなく、「自分で作り出すものである」。
貧困、虐待、孤独などは慢性的で有害なストレスである。
ストレスは脳で生成される。
ストレスが慢性化した場合、身体的な健康を損なう。
慢性的にバランスを書いた身体予算が、それを調節しているまさにその脳神経回路を変えてしまうのである。ここには、心の病気と身体の病気の区別は存在しない。
子供の頃に、粗末な食事、虐待、ネグレクト、いじめを受けた人は、大人になっても持続する低レベルの炎症を抱えるため、様々な精神疾患や身体疾患にかかりやすくなる。
心臓病、関節炎、糖尿病、がんなどの疾病に罹患するリスクを高める。
虐待やいじめは暴力以上に、その人の人生そのものを傷つけることになる。
痛み
「痛み≠痛み」
痛みは生体防御系として、身体を危険から守る信号である。
また、痛みは身体が損傷を負うだけでなく、損傷がさし迫っていると脳が予測するときに生じる経験でもある。
例えば、病院で注射針を打たれるときに脳内ではすでに「痛みの予測」が開始される。針が腕に触れる前から、痛みが感じられるかもしれない。
注射を打たれることで身体から伝えられる実際の痛覚入力に基づいて訂正される。
注射による痛みの経験は、実際には脳内に存在する。
痛みをシュミレートし、感じる。この現象はノシーボ効果と呼ばれる。
(痛みを感じないだろうと予測し、その思いが影響すると痛覚入力が抑制され、痛みをあまり感じにくくなることをプラシーボ効果と呼ぶ。)
不快感を覚えているとき、関節や筋肉に必要以上に痛みを感じたり、胃が痛くなったりする。
身体組織に何の損傷も追っていないにも関わらず痛みを経験することを、慢性疼痛と呼ぶ。
なぜ、身体が損傷していないのに、痛みをかんじるのはなぜか?
科学者は現在、慢性疼痛を炎症に起因する脳疾患として捉えている。
慢性疼痛を患う人の脳は、過去に激しい痛覚入力を受け取ったことがあり、損傷が回復しても、その情報が脳に伝えられず、その後も同じように予測や分類をし続けた結果、慢性疼痛は生じる。あるいは、体内の動きに関する予測によって、痛覚入力が、身体から脳へと送られる間に増幅されている。
「ストレス」同様、「痛み」は、身体から入ってくる感覚刺激をもとに意味を作り出す概念である。慢性疼痛は、脳が「痛み」の概念を誤って適用することで引き起こされる。身体組織の損傷や、それに対する脅威が存在しないにも関わらず、脳は痛みの経験を構築する。
このように慢性疼痛は、不適切な予測と、脳が身体から誤解を招くようなデータを受け取ることで生じる、悲劇的な病気の例である。
参考文献